1月26日の福岡講演会で、輪廻転生を描く映画「クラウドアトラス」を中矢代表からご紹介いただきました。今まで輪廻転生を描くハリウッド映画はなかったようです。世の中変わってきたなと思う映画です。
6つ謎を持った映画 ■[映画紹介]『Cloud Atlas』(邦題『クラウド・アトラス』)
『クラウド・アトラス』写真クレジット:Warner Bros. Pictures
6つの時代を転生する10人近い登場人物の出会いとドラマを描いたSFの超大作だ。原作を書いたのは英国作家デイヴィッド・ミッチェルで、発刊された04年当時は文学賞の候補にものぼり、映画化は不可能と言われていたという。
その不可能に挑戦したのが、『マトリックス』のウォシャウスキー姉弟と『ラン・ローラ・ラン』のドイツ人監督トム・ティクヴァ。ナタリー・ポートマンから原作を紹介されたウォシャウスキーが2年以上かけて脚本を練り、朋友のティクヴァに声を掛けた。3監督は担当する時代を分けて、二つの撮影を同時進行させて本作を完成させている。
6つの物語の中心らしき時代は文明崩壊後の未来で、孤島を舞台に部族で原始的暮らしをする男(トム・ハンクス)と、彼を助ける発達した文明社会から来た女(ハル・ベリー)の出会いが描かれる。二人の魂はほとんどの過去の中に登場するが、二人が出会わない時代もあるのだ。
2044年ののソウルを舞台にした、遺伝子組み換えによって生まれ奴隷状態を生きる女(ペ・ドゥナ)と彼女を救う反乱グループの抵抗と追撃のドラマや、一転1931年の『Cloud Atlas』という六重奏を作曲した英国の作曲家の悲劇的な恋物語、1850年にニュージーランドに渡った若き米国人公証人(ジム・スタージェス)の冒険では、二人は登場するが出会うことがない。
それぞれに興味深い6つの物語に共通性はなく、転生を直線的に関連づけようとすると混乱してくる複雑な物語の構造だ。しかも、それぞれの時代が過去と現在、未来の時間軸を無視してランダムに登場、その上3時間弱の長丁場である。かなり集中力が必要で、正直なところ6つ謎を持った映画を同時に観ている錯覚を起してしまった。
一つの大きな謎を追っていくことに物語の醍醐味があると思うが、その謎が6つに拡散してしまうと、後は瑣末なことばかりに気を取られてしまう。ハンクスとベリーの6変化メークに感心したり、ソウルを舞台にした部分では欧米人のアジア人変身メイクが皆同じ顔に見えて可笑しかったり…。こういう鑑賞の仕方をしてしまうと、もう一度観たいという気持ちになるのが常だが、そうも思えなかった。
理由は明確で、人は多くの転生をへて何をしようとしているのか、どこへいくのか、という究極の問いに迫っているとは思えなった、という不満にある。原作小説に対して "Cloud Atlas falls short of revolutionary." (『クラウド・アトラス』は革命的地点には及ばなかった)と評した批評家がいたようだが、同感である。もっと想像力を刺激して欲しかったし、人類の進化や覚醒についてのラディカルな視点を提示して欲しかった。つまりは『マトリックス』に迫る作品を観たかった自分の期待は果たされなかったのだ。YouTubeの意識覚醒系ビデオでも観てウサを晴らそう。
上映時間:2時間52分。サンフランシスコではシネコンなどで上映中。
『クラウド・アトラス』英語公式サイト:http://cloudatlas.warnerbros.com/
『クラウド・アトラス』日本語公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/cloudatlas/index.html