< Yahooニュースより転載 >
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第66回 コロナでグローバル資本主義が終わる!?──内田樹の凱風時事問答舘
思想家にして武道家、道場兼寺子屋の凱風館館長にして神戸女学院大学名誉教授のウチダ先生が世の難問、あなたの質問、疑問にお答えします。
Q: 2011年の3.11「東日本大震災」以来、今年もすでに「令和2年7月豪雨」と、日本列島を毎年のように災害が襲っています。世界的な新型コロナウイルス禍にさらされてもいます。こういうのが続いているのも、時代の転換期なのでしょうか。もし、転換期だとすると、この後どんな時代が来るのでしょうか?
A:アメリカが「鎖国状態」の意味
天変地異って、わりと固まってくるんですね。鴨長明の『方丈記』を読むと、たいして長いエッセイじゃないんですけど、毎年のように飢饉があったり、大火事があったり、竜巻が吹いたり、地震があったり、そのたびにたくさん人が死んでいる。『方丈記』が書かれたのは、平家の政権が瓦解して、平安時代が終わり、鎌倉幕府という武家政治に変わる歴史的転換の直前なんです。歴史的転換点の前は、その前兆のように天変地異が続いた。幕末も安政の大地震、天保の大飢饉がありました。今も地震、洪水、パンデミックと天変地異が続くのは地殻変動的な変化が起きる前兆かも知れません。
コロナのせいで一番大きく変わるのは経済システムでしょう。グローバル資本主義が終わるかもしれない。
感染症専門医の岩田健太郎さんから伺ったんですけれど、今度の新型コロナウイルスは変異が異常に速いそうです。だから、ワクチンが作れないかも知れない。実際にHIVのように40年近く経ってもまだワクチンができない感染症はあるわけです。
(中略)
■ 「健全な資本主義」回帰のために
(中略)
グローバル資本主義の命脈が尽きたということは、アメリカのエコノミストたちの多くが認めています。多くの経済活動が停止し、自由市場が機能していないのですから、政府による大胆な介入がなければ、資本主義システムは持たない。
(中略)
市場に任せていると、アメリカはこれからずっと「鎖国」を続けないといけないということです。アメリカが「健全な資本主義」に回帰するためには、国民皆保険であれ、ベーシック・インカムであれ、「ニューディール」であれ、政府が介入して、国民全員の健康と雇用を保証する必要があるということです。
ベーシック・インカムの導入についてはアメリカではもう数年前から、AI導入による雇用崩壊の話題の時から出ていましたが、コロナでさらに声が強まった。
■ 都市は感染症に弱い
コロナ禍でもう一つわかったことは、都市は感染症に弱いということでした。人々が密集し、労働でも消費でも、斉一的な行動をとる。軍隊や艦船内と同じです。そういうライフスタイルが最も感染リスクが高い。 感染症に強いのは「他人と違うニッチで生きること」です。動物に夜行性と昼行性、肉食と草食、樹上生活と地下生活があるように、同じ環境を共有する生物は「生態学的ニッチ」を変えることで共生している。人間だって同じです。だから、人々が1カ所に集住しない、人と同じライフスタイルを避けるというのが感染症対策としては最も安全です。
17世紀のロンドンのペストの時、貴族と金持ちは真っ先に田舎の別荘に逃げ出しました。ペストで死んだのはロンドンから逃げることができなかった貧民たちです。事情は4世紀経ってもあまり変わりません。「都市以外のところでも暮らせる人間は生き残るチャンスが高い」です。
今回も田舎で農業をやっている人は生活がほとんど変わらなかった。ソーシャル・ディスタンシングがデフォルトですから。満員電車にも乗らず、人が密集するところにも行かない。それでも生業が営めるなら、それは「ウィズコロナの時代」においては大きなアドバンテージです。
宇沢弘文先生の「社会共通資本論」はこれまで何度も紹介してきましたけれど、社会的共通資本の基本である自然環境(大気、海洋、森林、湖沼、河川など)を守るためには、総人口の20%から25%が「望ましい農村人口」比率だと書いています。 今の日本の農業就業者数は170万人。総人口の1.3%です。これを20倍にするという話ではありません。農村人口の大半は農業以外のことをする。本を書いてもいいし、絵を描いてもいいし、レストランやカフェをやってもいいし、もちろんのんびり年金生活をしていてもいい。
でも、都市から離れて農村部に分散して暮らすことが「ウィズコロナの時代」では生態学的に適切だということです。 僕は久しく「ローカリズム=資源の地方分散」を主張していますけれど、ローカリズムの基本は「地産地消・自給自足」です。エネルギー、食料、医療、教育、この4つは人間が集団的に生きてゆくためには必須のものです。
でも、グローバル資本主義では「必要なものは、必要な時に、必要な量だけ、最も安いコストで調達する」ことが当然とされていた。それが「ジャストインタイム」生産システムと呼ばれていました。でも、それがどれほど脆弱な仕組みだったか今回のパンデミックで明らかになりました。
アメリカの医療器具の戦略的備蓄はマスクと人工呼吸器が1%、酸素吸入器は10%でした。「在庫ゼロ」をめざして、要る時は要るだけ買うつもりでいたら、買えなくて医療崩壊が起きた。
教育もそうですね。少し前まで、「日本の大学は現場の技術者や労働者を育てていればいい。指導層はハーヴァードやオックスブリッジ卒がふさわしい」というようなことを言って日本の学校教育に期待しないと広言していた人たちがけっこういました。でも、「教育は要る時に外注すればいい」という前提そのものが欧米諸国の「鎖国」で崩れた。高等教育も自前でやらないと、世界のどの大学も「日本のエリートのための教育」なんかしてくれない。
■ エネルギー、食料、医療、教育はみんなで
もう一度言いますけれど、エネルギー、食料、医療、教育は「金で買えばいい」というふうに考えない方がいい。生きてゆくために必要なものは「手元」で、みんなで力を合わせて創出し、共同的に管理する。それが僕の主張する「ローカリズム」です。
政府と財界はこれまで「都市一極集中」「地方の過疎化」を進めてきましたが、パンデミックでそのグランドデザインそのものが破綻した。(中略)残念ながら、今の政府にはそのための巨視的な計画を立てる知力も意欲もありません。でも、市民たちの間ではすでに「生き延びる」ための動きが始まっている。
<転載終わり>
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内田氏が言われるように地方に住んでいる人の生活は、コロナ禍でも東京ほど大きくは変わりませんでした。高崎や宇都宮、三島などの地方都市は、電車での通勤よりも自動車での通勤の方が多いため、通勤に関してはあまり変化はありませんでした。
仕事に関しても、医療介護関係以外の企業に勤務する人は、コロナの影響を大きくは受けていません。マスクを付けるくらいです。地方都市での生活は東京や大阪に比べて大きな影響はなかったようです。ただ、経済には大きな影響が出ています。デパートや観光、飲食関係は売上が減少しました。今後の見通しも立っていません。
コロナ禍は既にピークを超えていますが、人々の意識はコロナ怖いのままのようです。