<ダイヤモンドオンラインより転載>
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段差だらけの「バリアアリー住宅」
介護業界を驚かせた取り組みの狙いとは?
65歳以上の高齢者が3186万人(2013年9月15日、総務省推計)に達し、4人に1人が高齢者となった日本。高齢化に伴い、お年寄りにやさしい街づくりが推進され、至る所でバリアフリーが定着している。
そんな中、「バリアアリー」というコンセプトのもとで、あえて段差や階段を設けたり、廊下に手すりを付けないなどの独自の方針を打ち出し、注目を浴びている介護施設がある。山口県山口市・防府市、千葉県浦安市、東京世田谷などで介護施設を展開する「夢のみずうみ村」である。
施設代表の藤原茂氏は、作業療法士として、高齢者リハビリテーションなどでの手厚い介護が逆に利用者の生活力を奪うという矛盾を経験。「自ら考え選択し、能動的に行動する」ことの大切さを痛感した中で、これを仕組み化したデイサービスセンターを2001年に山口県山口市で開設したのが、夢のみずうみ村の始まりだ。
以来、「人生に定年はない」をモットーに、高齢者が自ら「生活できる能力を再発見」するための様々な工夫を考案し、実践してきた。
高齢者が「自らの力で生きる」そのための支援をする 1日の行動を自分で決める自己選択・自己決定が原則。自ら楽しみ、意欲的に取り組むことで脳の活性化を促す(写真提供:夢のみずうみ村)
例えば利用者が1日の行動を自分で決めていくシステム。「普通は施設が用意したプログラムを全員が同じように受けるのですが、うちは朝来所してまず自分でやりたいメニューのプレートを貼っていくのです」とは、夢のみずうみ村新樹苑(東京世田谷)の管理者、半田理恵子氏の言。
プレートは「カラオケ」「パン作り」「料理教室」「カジノ」「パソコン」「気分しだい」「何もしない」など、もりだくさん。利用者が自ら楽しみ意欲的に取り組むことで、自然と脳を活性化させる仕掛けなのだという。
こうしたメニューへの参加は、すべて施設内通貨「ユーメ」でやりとりする。利用者は最初に7000ユーメを支給され、メニューの参加費を支払いながら通貨を自己管理する。「支払うだけでなく、朝バイタルを計ったら50ユーメをもらえるなど、ゼロにならないよう配慮がなされています。こうしてお金を自己管理することも脳の活性化につながるのです」と半田氏。
自立を促すバイキング形式の食事さらに、食事シーンもユニークだ。普通の施設では、利用者はテーブルに坐って食事が配膳されるのを待つ。しかし、ここはバイキング形式。利用者はそれぞれ自分の箸、茶碗、湯呑みを使用するのだが、まず、それらが収納されている箱の中から自分のものを探すことから始まる。
そして、トレーにマイ食器をのせて、料理を自分で取り分けていく。メニューを取るために机に寄り掛かりながら移動し、しゃもじを使ってごはんをよそう。「そうした行為すべてが、身体や手指を動かすリハビリになるのです」(半田氏)
タンスに手をつき、もたれかかるようにして移動することで、自宅での生活を再現。できることを再発見してもらう(提供:夢のみずうみ村)その他にも、長い廊下にタンスが並び、利用者はタンスにつかまりながら歩くなど、自宅と同じような環境を演出。廊下の壁には漢字の問題やパズルなども掲げられており、すみずみまで本人の意欲を引き出す工夫がなされている。
「自分ができることの再発見の場」として多くの利用者に親しまれ、現在は山口、浦安で1日に100名以上の高齢者が利用している。今年の7月にオープンしたばかりの世田谷新樹苑も、すでに1日約30名がデイサービスを利用している。
そうした中、通ううちに要介護度が軽くなる高齢者も現れているとか。いま、そのノウハウを知りたいという病院や施設からの問い合せと見学希望者が引きも切らない。人間の可能性を引き出す取り組みに注目度は増すばかりだ。
(加藤 力/5時から作家塾(R))
<転載終わり> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 介護における環境はバリアフリーというのが一般的ですが、この施設はその逆の環境を提供することで、高齢者の自立とやる気をうながしているそうです。何でも便利でラクにしてあげるより、少しくらいのストレスを与えた方が却って人間を強くし、やる気を出させるということを証明した格好になっています。 野菜などもトラクターで土を耕して、フカフカにしてから種を蒔くよりも、耕していない土に種を蒔く方が元気になるケースが多いことからも、適度なストレスは人間や植物にも必要ということが分ります。 これから寒さが厳しくなって来ますが、寒さも良いストレスだといえるのかも知れません。 ・ダイアモンドオンライン