<経済コラムマガジン>
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解散・総選挙の裏側
11月17日、注目の7~9月GDP速報値が内閣府から次のように公表された。
2014年7~9月GDP増減率(単位: %) 項 目実 質名 目 個人消費 0.4 0.4 住宅投資 ▲6.7 ▲6.8 設備投資 ▲0.2 ▲0.0 政府消費 0.3 0.6 公共投資 2.2 2.8 輸 出 1.3 2.7 輸 入 0.8 4.3 GDP ▲0.4 ▲0.8 (年率換算) ▲1.6 ▲3.0
7~9月期GDP年率換算は▲1.6%と2期連続のマイナス成長(前4~6月期は▲7.3%)となった。あまり数字が良くないことを皆は薄々分っていた。しかしまさか2期連続でマイナス成長とは、日本のエコノミストの誰もが予想していなかった。このショッキングな数字を受け東証株価は当日500円も下がった。
そしてこの悪い数字を受け、安倍総理は消費税再増税の延期と衆議院の解散を決めた。どうも安倍政権は、7~9月が相当悪くなることを事前に察知していたようである(8月の数字が悪いことに注目したという話が出ている)。つまり今回の一連のシナリオは、一つの選択肢としてかなり前から描かれていたようである。
ただ増税延期が先に決まっていて、解散はその後に決めたと筆者は推測する。増税延期と解散が同時に公表されたことが重要である。これは安倍総理の危機感を表したものという観測が流れている。
元々安倍総理は、昨年の8%への増税にも反対であった。ところが今回の再増税でも財務省を中心とした増税派の工作が激しかった。野田党税調会長を中心とした増税推進派の議員連盟の参加者が100名を越え、一方、45名ほどいた議員連盟「増税を慎重に考える会」は財務省官僚の切崩し工作で三分の一に減った。これでは増税延期の法案を提出した際、自民党内が混乱し造反議員が出てくる可能性さえあった。しかし解散の威力は強く、解散観測が流れると増税推進派の会合の参加者は20~30名まで減ったという。
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」で述べたように、日本のエコノミストのほぼ全員(19人中18人)が増税派(財務省の工作員と言って良い)である。このエコノミストの7~9月期のGDP予測が年率2~3%のプラス成長であった。ところが7~9月期GDPがマイナス(1.6%)となったから驚きであった。
彼等は、テレビなどに引っ張り出され一生懸命弁明していた。あるエコノミストは「何々さんはプラス成長を予測していたエコノミストの中でも一番低く予想されていましたね」とからかわれ苦笑いをしていた。彼等は一様に「消費と設備投資がこんなに弱いとは思わなかった。また在庫投資がこんなに減るとは思わなかった。在庫の動きで年率で2.6%もGDPが下振れした」と言い訳をしている。
筆者は、日本のエコノミストは「ばか」か「嘘つき」とずっと思ってきたし本誌でもそう言ってきた。しかしどうも本当の姿は「ばかで嘘つき」のようである。明らかに彼等は増税を推進するため高くGDP成長率を予測して来たのである。
2ヶ月前、本誌は14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」で「筆者は4~6月で在庫投資が増えていることをなどを考慮すると、7~9月も厳しいと見ている(在庫投資増は4~6月でプラスに働くが7~9月にとってマイナス)」と指摘した。つまり筆者が指摘した通りのことが起ったのである。
エコノミスト達は、再増税が延期されたのは残念であるが、財政再建のためには増税は必要と馬鹿げた主張をまだ続けている。そして7~9月期で在庫が整理されたので、以降の経済成長は高まると言っている。しかし筆者は、在庫の全てが整理されたとは見ていない。さらに9月の半期決算に向け、予算達成のため自動車などがディーラーに押込み販売(登録)されたと見ている(押込み販売は車だけではなかろう)。この登録車は7~9月期の消費にカウントされるが、後に新古車として市場に出回る。その影響もあってか10月の新車販売台数は対前年同月比で6%減っている。
日経Needsの予測では14年度(14年4月~15年3月)の経済成長率はマイナス0.6%であり、筆者もその程度と思っている。たださすがに為替がこれだけ安くなれば輸出もある程度伸び、一方、輸入資源の価格が下落している。つまり貿易赤字が多少減り、これがGDP計算でプラスに働く。ただ貿易収支が改善し、経常収支の黒字幅が大きくなれば、当然、円高圧力が増す。購買力平価より安くなっている今日の為替レートが、このままで推移するとは筆者も思っていない(ただ日銀がさらなる追加緩和をすれば話は別であるが)。
第二次アベノミクス
衆議院が解散され、総選挙が実施される。ところが争点が不明という声が大きい。たしかに前段で話をしたように自民党の都合での解散という要素が濃い。安倍総理は「アベノミクスの是非を問う選挙」と位置付けている。
しかし13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」で述べたように、一年前、8%への消費税増税と補正予算の4.5兆円の減額(13年度の10兆円から14年度の5.5兆円への減額)が決定された時点で、「アベノミクス」は一旦終了したと筆者は感じた。実態としての「アベノミクス」は周りから潰され仮死状態になり(2期連続のマイナス成長を見れば分る)、言葉での「アベノミクス」だけが生き延びているのである。もし安倍総理が本来の目的であるデフレ脱却のための「アベノミクス」を復活させるのなら筆者も当然支持する。
つまり安倍総理が今回掲げる「アベノミクス」は「第二次アベノミクス」である。「第一次アベノミクス」は、財政再建派が安倍政権の周辺を取巻き失敗へと導いた。「第二次アベノミクス」はこれ対するリベンジになる。今日の状況は小渕政権の後半ととても似てきた。当時、財務官僚が宮沢財務相を取囲み、さらなる財政支出の増大を抑えた(この時も片方で経済戦略会議という無意味な会合が延々と続いていた)。この結果、これ以降、経済の回復が一服し不良債権問題の解決が遠のき、地価と株価がさらに下落した(外資が底値で買って大儲けした)。
昨年、急激な景気回復と株価の上昇を受け、総理の周辺に「これからは財政再建が4本目の矢」とはしゃぐ者が出てきた(この時、筆者はダメだと思った)。このような勢力が消費税増税と補正予算の大幅減額を押し進めたのである。官僚も消費税増税に加え細かな増税や社会保障費の減額と保険料の引上げを画策した。この結果、2期連続でマイナス成長になるのも当たり前である。
信じがたいことであるが、総理周辺には基本的な経済学でさえ誤解している者がいる。例えば麻生財務大臣は一年前「消費税増税はマイナス効果であるが、5.5兆円の景気対策を打ったから大丈夫」と言っていた。しかし13年度の補正予算は真水で10兆円(計上額は12兆円)であった。つまり補正予算だけを見れば4.5兆円のマイナスである。つまり4.5兆円に乗数値を掛けた金額で最終需要が減るのである。消費税増税を睨んだ景気対策と言うなら、逆に補正予算を大幅に増額させ最低でも20兆円以上(真面目にデフレ脱却を目指すなら25兆円以上)が必要という計算になる。
しかも今年度に向けての5.5兆円の補正予算は、財務省の都合で決められている。予算の使い残しと税収の上振れ(財務官僚が必ず低く見積もる)、さらに国債費の減少(国債利回りを必ず高く見積もる)を合計したものが昨年度は5.5兆円だったと筆者は見ている。ちなみに来年度に向けた景気対策としての補正予算は、2~3兆円と言われている。これもこれらの合計が2~3兆円になるからである。ただちょっと前までは、この補正予算額が4兆円程度と言われていた。おそらく経済の低迷によって税収が減ると予想しているのであろう。
またマスコミに登場する識者は、2期連続のマイナス成長について消費税増税の悪影響にしか言及しない。補正予算が減額されていることや他の増税や社会保険料の引上げを完全に無視している(要するに経済のことを解っていない可能性が強い)。筆者は、消費税増税とこの緊縮財政のマイナス効果はほぼ同じ程度と見ている。
筆者の勝手な想像であるが、安倍総理の周辺も政権の真の敵は財務省とこれに支配されている増税派(要するに財政再建派)という認識を深めたと思っている。いきなりの解散も、これしか選択肢がなくなっていたからと筆者は理解している。総選挙の結果は現時点では予測できない。ただおそらく財務官僚が、安倍自民党の敗北を強く願っていることだけは分る(言いなりになった民主党政権がなつかしい)。
<転載終わり>
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安倍総理は元々消費税8%への増税に反対であったと聞いていましたが、今回解散総選挙を決めたことで、それが事実であったことがはっきりしました。消費税を8%、10%に上げることに賛成している人は官僚とその関係者・マスコミ以外でいるとは思えません。知り合いの中にも、消費税増税に賛成している人は誰もいません。高給外車などの贅沢品の消費税だけを、10%や20%引き上げるのであれば、反対する人は少ないと思いますが、食料品などの生活必需品までも含めて8%に上げたことに対して反対しているわけです。
確かに国家財政は、表向きは厳しい状況にありますが、宗教団体へ課税するなど、解決方法はいくつもあります。また、裏の事情は「余命3年時事日記」さんが詳しく説明してくれていますので、関心のある方は読んでみたらいいと思います。